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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)2145号 判決 1972年1月27日

原告 三福信用組合

右代表者代表理事 佐藤龍治

右訴訟代理人弁護士 中村善胤

同 多屋弘

被告 東大阪信用金庫

右代表者代表理事 上野磯雄

右訴訟代理人弁護士 北村巌

同 北村春江

同 松井千恵子

同 山本正澄

同 古田冷子

同 岩崎範夫

主文

一、原告の請求を棄却する。

一、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判。

(原告側)

一、被告は、原告に対し金三〇八万六、四二八円及びこれに対する昭和四二年六月一五日以降支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

(被告側)

「原告の請求を棄却する。」との判決。

第二当事者双方の主張。

(原告側)

一、請求原因。

(一) 原告は訴外土橋渡(以下訴外土橋という)に対し金二、〇〇〇万円を貸与していたが、これにつき昭和四一年一一月二〇日大阪法務局所属公証人三吉信隆役場に於て、同公証人作成第一一六、三九九号公正証書の作成を受けた。

(二) 原告は右公正証書に基づき、訴外土橋が被告信用金庫に対し有する左記債権につき昭和四四年六月一三日差押命令(当庁昭和四二年(ル)第二、〇七一号)、取立命令(当庁昭和四二年(ヲ)第二、一四五号)を得て、右各命令正本は同年同月一四日、訴外土橋及び被告信用金庫にそれぞれ送達された。

記(差押及び取立被債権)

訴外土橋が被告信用金庫本店に有する

一、当座預金債権、二、普通預金債権、三、通知預金債権、四、別段預金債権、五、定期預金債権、六、定期積立債権、七、出資金債権、

但し右の順位により、また同額の預金については満期日到来の順位により金二、〇〇〇万円に満つるまで充当されていくものとする。

(三) 原告は、その後右取立命令による取立権を放棄し、右差押債権のうち別紙転付債権目録記載の各債権(以下本件転付債権という。)につき、前記公正証書に基づき、昭和四二年九月五日転付命令(当庁昭和四二年(ヲ)第三、二五二号)を得た。右命令正本は、同年同月七日、訴外土橋及び被告信用金庫にそれぞれ送達された。

なお被告は、出資金債権について、金銭債権でないから被転付債権としての適性を欠く旨主張するが、信用金庫の会員は、何時でも自由に脱退出来るのであり且つ脱退者はその持分の払い戻しを請求できるのであるから、これが金銭債権であることは明らかである。

(四) よって原告は、被告に対し本件転付債権の合計金三〇八万六、四二八円及びこれらに対する差押命令が被告に送達された日の翌日である昭和四二年六月一五日以降右支払済みに至るまで商事法定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

≪省略≫

(被告側)

一、請求原因に対する答弁。

(一) 請求原因事実はすべて認める。

(二) 次に出資金については、

(イ) 信用金庫の会員については、その出資の限度において責任を負担する旨および出資の払込については会員による相殺を禁止する旨の規定がある(信用金庫法一一条四項、五項参照)。

(ロ) 会員の持分譲渡については、金庫の承諾があった場合に限り譲渡できるものである。

このことよりすると、金銭債権でないことは明白であるから、被転付債権としての適性を有しない債権であり、従って適性を有するとしてなされた転付命令は、その限りにおいて効力はなく、これが支払を求める本訴請求部分は失当である。

≪以下事実省略≫

理由

一、請求原因事実については当事者間に争いがない。

そこでまず、本件転付債権中、の出資金の性格について判断するに、信用金庫法一一条によると特定信用金庫の会員たるものは、一定の出資をすることが要求され同法一三条によれば出資をすることにより会員たる資格を取得するのであるが、この出資の結果信用金庫とその会員との間に生ずる関係は、社団法人とその構成員との関係であって、債権、債務の関係ではない。このことは同法一一条四項の有限責任の規定、同法一二条の議決権に関する規定などより明らかである。

そうすると信用金庫の会員は、信用金庫に帰属する財産に対し持分権を取得し且つこれに尽きるのであって信用金庫に対し出資金の返還請求債権なるものは認められないこととなる。

原告は、信用金庫の会員は、何時でも脱退でき且つ脱退者はその持分の払戻を請求できるのであるから、出資金は金銭債権であると主張する。そのいわんとするところは、信用金庫法一六条一項の規定によれば、会員は何時でもその持分を譲渡して脱退することができ、その際譲渡を受ける者がない場合は、金庫に対しその持分を譲受けるべきことを請求することができるのであり、また同法一七条一項、二項によれば、会員は一定の事由が生じた場合は脱退する旨規定され、その際には同法一八条により持分の払戻を金庫に対し請求できる旨それぞれ規定されてあり、この金庫に対する、譲渡による対価債権あるいは払戻請求債権をもって金銭債権と評価できるという趣旨と解せられる。

しかし右各規定より直ちに明らかな如く、右対価債権、あるいは払戻請求債権は、その存否、数額について定まっていないのであるから券面額が一定していないと見るべきである。

そうすると原告の得た昭和四二年九月五日付転付命令(当庁昭和四二年(ヲ)第三、二五二号)のうち出資金債権を目的とした部分は無効であって、原告は被告に対し、訴外土橋の被告に対する出資金の支払を求めることはできないこととなる。

二、そこで次に被告の抗弁につき判断する。

(一)  ≪証拠判断省略≫

(二)  しかして≪証拠省略≫によれば左の事実が認められる。

(1)  訴外土橋は、被告と昭和四一年一二月一九日、手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、支払承諾、保証契約等についての取引に関して生じた債務の履行につき約定を結び、その中で同人は、被告に対し、負担する一切の債務の一つでも履行を怠った時は、通知、催告等の手続を要せず被告に対する一切の債務につき当然期限の利益を失い直ちに債務を弁済する旨並びに債務を履行しなかった場合は、元金一〇〇円につき日歩六銭の割合で損害金を支払う旨約した。

(2)  そして訴外土橋は、右約定に従うことを承認したうえ、被告より次の如くそれぞれ金員を借受けた。

(イ) 昭和四一年一二月一九日、金一五〇万円。弁済方法は貸付後五ヶ月目より毎月金七万五、〇〇〇円宛二〇回分割で支払う。利率は元金一〇〇円につき日歩二銭三厘の割合とし、利息は毎月二〇日、一ヶ月分先払とする。

(ロ) 昭和四二年三月二五日。金二〇〇万円。弁済方法は、貸付日の翌月より毎月金八万円宛二五回分割で支払う。利率は元金一〇〇円につき二銭八厘の割合とし、毎月二五日一ヶ月分先払とする。

(三)  そして右被告の訴外土橋に対する各債権については、被告の主張する一部弁済のほかに訴外土橋が約定に従い分割金及び利息金の弁済をなしたことについてはなんらの主張立証がない。

そうすると、訴外土橋は被告の主張するとおりの約定利息について弁済期を徒過したため前記期限の利益の喪失の約定に従い右(イ)の金一五〇万円の債務の残代金一四二万五、〇〇〇円については昭和四二年六月二一日に、(ロ)の金二〇〇万円の債務の残代金一九二万円については同年五月二六日にそれぞれ期限の利益を喪失し、それに伴い弁済期が到来するのであり右各弁済期到来以降は約定に基づき完済に至るまで元金一〇〇円につき日歩六銭の割合による遅延損害金を支払う債務を負担することになったと認められる。

(四)  そうすると、被告が昭和四五年九月二四日の、本訴第三回口頭弁論期日において、右各残元金及びこれらに対する遅延損害金を自働債権とし、本件預金転付債権及びこれに対する利息を受働債権として、別紙相殺計算表記載のとおりの充当方法で相殺する旨の意思表示は当然にその効力を生じ(本件預金転付債権及びこれに対する利息の存在並びにこれらが受働債権となっていることは当事者間に争いがない。)原告の被告に対し有する出資金を除く本件預金転付債権は、別紙相殺計算表記載の充当方法で、相殺適当の時に遡及してすべて消滅したこととなる。

(五)  よって原告の本訴請求はすべて理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田栄一 裁判官 中山博泰 岡部崇明)

<以下省略>

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